冷花伝 #007 出産直前
人には魂がある。魂は肉体に宿り、身体が使用不能になると退出する。魂は神々からの配分だから、身体から出れば一応、神様の扱いになる。それが身近な神様の実体である。その原理から述べるならば「子を宿す」ことは神を迎えたことになる。よって汝我の思い込みからすれば「私の家系に昴女が降臨した」と大袈裟なことになる。身体に宿った魂が安定するのは妊娠して八ヵ月あたり。そして臨月を迎える。甲子(かし)が臨月に入り、尊霊界から観える昴は益々明るくなった。その事に対して、後の冷花が言う。「母が臨月の頃、昴以外にも明るくなった星座が在ったはずだ。それを冷静に見つめておれば、昴女降臨を錯誤しなかったと思う」この記録は粗衣(そい)の尊霊界に在った。粗衣とは現在の島根県大山町御来屋(みくりや)に中たる。恐らく冷花が二十歳になった頃の発言である。話を戻すが、臨月の甲子を見つめていたのは汝我だけではなかった。汝我の生前、共に働いていた上司が二人居た。この方々も尊霊になったのである。そして汝我の影響を受けて「昴女の降臨」を期待していた。但し、安産を促すような方々ではない。もちろん其の方々の所為(せい)ではないが、甲子は難産になりそうな状態であった。察した父は、隣村に住む巫に助けを求めに走った。その巫と云うのは、いつの間にか現れて村に住み着いた仙女である。仙術に長けていたそうだが、そのような者は嗜乃津(たしなず)では珍しくない。
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