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冷花伝 #064 龍神学への誘い

星名女がやって来た。「甲子(かし)様、私に御用があると察して 、参りました」甲子は驚きもせず「盆架水(ぼんかすい)」 を用意して星名女を迎えた。星名女が椀を手に取り、 一口飲んで話し始めたところ、それを観た冷花は、 急にケラケラと笑いだした。星名女は其れを気にかけながらも話し 始めた。「甲子様が、私を御呼びになったような気がしました」 と、口調としては丁寧だが(私は何でも知っています)とばかりの 気位(きぐらい)だった。冷花は笑いを堪(こら)えながら、 口を閉じていた。甲子は星名女への敬意を込めて「昨日、 星名女さんのことを考えていたのです。最近、妖精界の激景( げっけい)とも思えるものを見たのですが、冷花が見た夢に関係が あるようなのです。私にとっては、冷花を産んでからの経験なので 」と、浮気伝に纏わることを話した。そして最後に、「星名女さん だったら、妖精のことを詳しく知っているのじゃないかなと冷花に 言ったのです。すると星名女さんが来られたので、天耳(てんに) でしょうか。有り難く感じます」と、締め括った。天耳と云う言葉 が心地良かったのか、星名女は「私は冷花さんの御生まれから見守 っております。とうぜん甲子様の心中も常に伺っております。故に 通じたものと思われます」と、親しみを込めて語った。何故か冷花 は、真面目に聞いていた。そして「小母さんが来たのは偶然だと思 っていたの。でもさ、昨日は龍神が冷花を見ていたんだ。 母さんと臍の話をしていた時、母さんの素女(そめ) が白く光った。たぶん龍神には其れが分かったんじゃないかな。 浮気伝に、龍神が近くに居ると素女が光るって御話があったから」 と話した。素女とは臍下(へそのした)の幼児語である。丹田を表 すこともあれば女性器を示すこともある。ところで甲子が架族魚( かぞくぎょ)を目撃した時、素女が光っていたはずだ。但し、可視 光線を放つと云う意味ではなく、素女から陽気が発散するのである 。現代的な言い方ならば、龍神のエネルギーに身体が共振している のである。冷花は最初、星名女の来訪は偶然と思っていた。しかし 偶然ではないと思い直したのは、星名女が近くに居て母と冷花を観 察していたと考えたからである。実は音象詩に、 こんな記述がある。 音象詩 第八章「龍神学への誘い」 嗜乃津(たしなず)は特別な地である。冷花はその地の...

冷花伝 #063 母との遊戯

  架族魚(かぞくぎょ)が現れた日から二週間ほど経った朝、甲子は 冷花に詳しく聞いてみた。直ぐに聞きたかったのであろうが、 暫く考えていたようだ。あの日以来、冷花の目線に落ち着きがなく なったことも気に掛かっていたのだ。 母「何か見えるの。瞳が動いてるわ」 冷花「見えないから落ち着かないのよ。母さんは妖精が見えるので しょ」 母「どれだけ見えてるのか分からないけれどね。そう云えば御父さ んは、曇の日だったら何となく見える。って言ってたわよ」 冷花「お天気によって違うんだ。明るかったら見えないのかな。で も、妖精って色々居てるんでしょ。今まで、どんなの見たか教えて よ。そう云えば浮気伝にも妖精が出てきてたんでしょ。冷花は御話 イッパイ聞いたけど、妖精とか神様とか考えていなかったな。母さ んの話を聞いて楽しいだけだったから」 冷花が「浮気伝」と言ったところで、甲子(かし)は目を輝かした 。其れに気付いた冷花は「母さん、目が大きくなったけど。 何か私の傍(そば)に居てるの」と、自分の周りを見回(まわ) した。甲子は少し微笑んで「いいえ、何も居ないわよ。 私の目が大きくなったのはね。あなたが浮気伝っていったからなの 。ところで冷花、夢に小さな御人形(おにんぎょう)のような子供 が現れたって言ってたでしょ。どんな感じの子供だった」 母から夢のことを聞かれた冷花は、数分間、 目を閉じて思い出していた。「変な服を着ていたな。臍(へそ) が見えていて、手の袖か短かかった。髪の毛は冷花と似ていた。 それから、話し方は大人みたいだった」冷花が言ったのは其れだけ だったが、甲子は其れで確信出来た。「きっと、 その子が私に御話を伝えてくれてるのだわ」それを聞いた冷花は何を 思ったのか、自分の臍を出して「こんな形の臍だったよ」と、 周りを押さえて変形させた。すると母も臍をだして、 冷花の真似をした。それから暫く、母と娘(こ)の「臍出し談話」 が続いたが、甲子は急に目を輝かした。それを見た冷花は、母がふ ざけたのだと思い「母さん、また目が大きくなったよ」と言って、 大笑いした。しかし甲子は真面目な顔をして「星名女さんだったら 、妖精のことを詳しく知っているのじゃないかな」と言った。する と次の日、何故か星名女が尋ねてきた。

冷花伝 #062 鹿島神宮の要石

  武甕槌(たけみかづち)を祭神とする鹿島神宮には「要石(かなめ いし)信仰」がある。要石の役割は「地震を起こす大鯰(おおなま ず)」の頭を押さえて封じることだ。承知の通り日本は地震大国で ある。ところで現代科学ではプレートテクトニクス説と言って「地 球表面は十数枚の大きな石畳で覆われている」と信じられている。 尊霊界の科学者からすれば「そんな馬鹿な」と云う話なのだが、 今のところ口(くち)を合わせておくのが賢明だ。そこで、 土地の下方(かほう)は「板っぽい」と覚えておく。 例えばユーラシア大陸の下は大俎(おおまないた)なので、 大龍神の石畳に最適だ。此処で地震の話をするのは「 尊霊界の危機」との関連である。尊霊界の生立ちを思い出して欲し い。第五の傍(そば)で構築されて行った世界だ。だから「隣景( りんけい)」と言うことも既に述べている。 ところで地震のイメージだが、轟音(ごうおん) と云うのはどうだろうか。それを安定させるのが鎮星の音、 即ち納音(なっちん)である。大地を叩くのが太陽の光棒、 ドラムのスティックのようなものだ。さて連妖が発するのは怪音( かいおん)であって納音のハーモニアを剥がしてしまう。第五と隣 景が怪音によって剥がれようとすると、崩壊の危機に遭うのは尊霊 界だ。第五は硬い、つまり縛力が強いので崩れにくい。 ところが隣景の異常は、やがて地球内の流縛部を揺さぶって石畳が 震える。何が言いたいのかと云うと、第五で大地震が起きれば、そ の前に尊霊界が壊れているのである。第六は人の念積によって形成 されている。連妖も然りである。当然、架族魚(かぞくぎょ) も同じだ。その架族魚が連妖に呑まれたのを、甲子は目撃した。し かし厳密には、呑み込まれたのではない。入って行ったのである。 架族魚の形態は「鯰」になって石畳に座る。 場合によっては人型になって人と話す。連妖の中を駆ければ太刀魚 のように成る。甲子の証言によると、連妖に呑み込まれる直前は人 型に見えたそうだ。そして「行ってまいります」 と掛け声のような口調で言ったそうだ。どうやら架族魚には、 連妖を鎮める働きがあるようだ。それでは冷花伝の設定を話そう。 鯰は地震を起こすのではなく、地震を抑えようとして暴れているの だ。要石は、鯰の動きを補佐する押石(おうせき)なのである。 要石信仰とは、祈りによ...

冷花伝 #061 連妖と龍神

第六龍神に慣れたところで、冷花を訪問する第六龍神を紹介してお く。名は架族魚(かぞくぎょ)と云い、太刀魚(たちうお)のよう で頭が龍の形をしている。龍の形とは、一般的に絵師が描くような 顔である。但し、妖精なので変化(へんげ)する。 太くなることもあるし、人型(ひとがた)になることもある。 冷花には見えないが、声は聞こえるような気がするそうだ。 作者にも見えないが、聞くところによると鯰(なまず) のようにも見えるそうだ。作者の推測では、 早く動くときは太刀魚のようで、静止して頭(こうべ) を垂れれば鯰になる。人に語ろうと欲(ほっ)すれば人型になるの だと思う。妖精とは其の様なもので、念の動きによって形を顕すの である。それでは何故、第六龍神が冷花を訪問するのだろうか。 理由はやはり「昴女の噂」と関係があるのだが、冷花の夢枕に立っ た小さな子供が連れてきたのである。この子供が浮気伝に象徴され る浮気童子(うきどうじ)である。冷花は母の語りで浮気伝に親し んできた。ある日、母が石畳の上に乗っている鯰を見た。 直ぐに冷花に伝えたら、冷花は思い立って尊霊に伝えた。すると奇 妙な音が鳴り出して地震が起きた。そして連妖が現れ、鯰を飲み込 んだように見えた。冷花は気配を感じただけだが、甲子は其の様子 を鮮明に目撃した。

冷花伝 #060 第六龍神

妖精界のことを「第六神相法界(だいろくしんそうほっかい)」と 呼んでいる。御存知の読者も多いと思うが、簡単に説明しておく。 作者の学風では、宇宙を数字で理解している。始りが「第一( いち)神相法界」で、元始言霊(げんしげんれい)を意味する。 次が「第二(に)神相法界」で、時間と空間の分離を意味する。 その次が「第三(さん)神相法界」で、時空に意思が現れる「 宇宙創造神(うちゅうそうぞうしん)」の世界である。 そして次が「第四(よん)神相法界」で、 我々が神界と呼ぶ世界である。最後が人間界で「第五(ご) 神相法界」なのであるが、人間が創造した妖精界を「 第六神相法界」と呼ぶことにした。普段は、第一、第二、第三、 第四、第五、第六、と略して云うことが多い。 それでは本題に入る。妖精界は第六であるから、妖精界の龍神を「 第六龍神」と言う。言葉とは面白いもので、言い方を変えると、同 じものでも見え方が変わってくる。例えば「妖精界の龍神」と「第 六龍神」とを比べれば印象が違う。ところが此処に巧妙な工夫が在 るのだ。実際に「第六龍神」にも色々あって「 呼称から受ける印象」に依って識別する。詳しくは逐次話すとして 、石畳は第六龍神の杭(くい)である。杭とは龍神が爪を置く踏場 (ふみば)であって、我々が踏む「飛石」のようなものだ。 第六は地面が柔らかいのが普通だ。だから石畳が、 龍神の踏場になってくれる。冷花の周辺に石畳が現れたのは、第六 龍神の来訪に備えた動きなのである。そして大切なことを覚えてお いて欲しい。冷花は第六を観るのが苦手である。ところが両親には 第六が見える。

冷花伝 #059 石畳

この話は、仙町録にも音象詩にも、書いていない。冷花11歳の「 ある日」の出来事である。家の裏に在る「石畳(いしだたみ)」の こと。冷花が母に聞いた。「平(ひら)たい石が並んでいるけど何 するの」甲子(かし)は「えっ」と思って石畳を見た。そして「 こんなの在ったかしら」と首を傾(かし)げた。 そんな母の様子を見て、冷花は「昨日は無かったよ。母さんが作っ たのかと思った」と不思議がることもない。誰かが置いたには違い ないだろうが、一晩で作るには大き過ぎる。一刻ほどして、 父が仕事から帰ってきた。冷花は全く同じ言葉で聞いた。「平たい 石が並んでいるけど何するの」速凄(はずさ)は「あれっ」と言っ て、暫く見つめていた。その父の様子を見て、冷花は「昨日は無か ったよ。父さんが作ったのかと思った」と楽しそうに言った。 読者はもう分かったと思うが、この石畳は冷花が作ったのである。 厳密に云えば冷花が作らせたのであるが、其れを話す前に言ってお きたいことがある。本段から父の名を明かすことにした。そろそろ 出雲族の話題を織り込むからだ。別に隠していた訳ではなく、単に 作者の趣向だと思っていただきたい。それでは石畳の話に戻す。 昨晩、冷花は就寝して間もなく夢を見た。 但し一般的な夢ではなく、妖精の訪問を受けた。その妖精が「 石畳」なのである。冷花のように尊霊界が良く見える者は、妖精界 を観るのは不得意だ。それで石畳は夢を利用した。因みに石畳の正 式名は「杭亀(くいかめ)」と云う。正式名と云うのは田端刃( たづまは)が呼称する象名で、連妖(れんよう)に対する雲羅華( くもらげ)のようなものだ。夢に御人形(おにんぎょう) のように小さな子供が現れて「明日、お母さんと家の裏に行って聞 いて欲しいのです。平たい石が並んでいるけど何するの。って。冷 花には見えていないけど、見えているように言って欲しいのです。 それで、お母さんに見えているかどうかを確かめるのです。見えて いるようだったら、昨日は無かったよ。母さんが作ったのかと思っ た。って言って欲しいのです。そして、お父さんにも同じことを言 って欲しいのです。裏には此の子が来ているのです」そう言って指 差したところを見ると大きな亀が居た。冷花は「面白そう」 と思いながら夢の中で目を閉じた。

冷花伝 #058 落界の神

重要な尊霊と云えば、筆頭に「蘇支」を挙げる読者も居(お)られ るだろう。蘇支は、冷花と積龍神との通架役だ。出雲にも随行して いる。その後も冷花に付き纏い「今まで有難う」と、 冷花から三度(みたび)も「さよなら」を言われたが、去らなかっ た。理由は何故か言わない。しかし冷花の師匠には見破られている 。但し芳雅の語りは先になる。それで読者には辛抱強く待っていた だくことにして、蘇支が文刈(もんかり) だったことを思い出して欲しい。文刈は歴史学者のようなものだが 公職の文官ではないことも述べてある。さて本段は、 そこのところを詳しく語らなければならない。そこで先ず、 尊霊界の経歴には概ね二(ふた)通りあったことを思い出して欲し い。一つ目は繰糸落(そうしらく)、 上の神界から落ちて来た神が形成した界である。二つ目は引糸登( いんしとう)、人間が昇界して形成した界である。此処で読者がシ ッカリ覚えなければならないのが、菜田の尊霊界は繰糸落だったこ と。つまり以前は積龍神が屯(たむろ)する階層と同じ「上神界」 だったのである。そして重要なのが「落ちてきたからには、念積様 は人間的になっている」と云う事実だ。ところが「上の神界から来 た」ことだけは事実なので、其れを振りかざす。そこで冷花に「 菜田には幽霊が沢山居って威張っている」と言われるのである。 現実は威張るどころでは無い。人間界の知識がないから、 尊霊としては未熟なのだ。だから文官には就けないのである。 よって蘇支は文刈なのだ。ところが積龍神にしてみれば、元は同階 層の神なので意思疎通が容易(たやす)い。それで冷花との通架役 に選んだのである。それが冷花十歳の卯月、彼女に一大転機を齎( もたら)したのだ。