冷花伝 #013 積龍神
怪しげな覡(げき)が「吾は積(つも)龍神なるぞ」と叫んだ瞬間、冷花は「戯(たわ)けな」と思った。それでは何故、冷花に其れが偽物だと分かったのか。見かけが「如何にも胡散臭い」からではない。冷花は物心付いた頃から、積龍神に接していたからなのだ。そんな事を云うと、冷花が人間ではないみたいな印象になってしまう。それも其のはず、これは仙町録に書いてある尊霊界の話だからだ。それでは先ず、積龍神について語ることにする。積龍神は、尊霊にとっての「上の神様」である。だから人間界からは、優秀な仙人でも観えないのが普通だ。しかし稀に、輪郭なら観える者が在(い)る。何故に輪郭が観えるかは「話がややこしくなるので」止めておくが、冷花は其の体質だったのだ。七歳の夏、菜田(なた)の尊霊界が騒がしくなった。龍神が頻繁に目撃されたからだ。菜田には蘇支(そし)と云う文刈(もんかり)が居て、色んな出来事を記録していた。文刈とは、歴史学者のようなものだが、文官(ぶんかん)と表現しないのは公職ではないからだ。 龍神が頻繁に目撃されるようになってから、蘇支は龍神との接見を望み、祈願した。その願いに応えてくれたのが積龍神だった。
積龍「聞きたいことが在るのか」
蘇支「私が尊霊に就きまして三十年になりますが、こんなに龍神が来られるのは初めてです。何事か在るのでしょうか」
積龍「これから暦神の結束が始まる故にな、準備をしておる」
蘇支「暦神の結束とは如何なることでしょうか。初めて耳にいたします」
積龍「昔の仲間が同期転生して事を起こすのだ。その仲間たちの遭遇を見守るため、我らはきておる」
積龍神と蘇支の遣り取りは二刻に及んだそうだ。その内容は仙町録に残されている。要するに冷花は其の「暦神の結束」とやらの人員だと云うことだ。積龍神は、謂わば冷花の守護神なのだ。しかし此処で勘違いしてはならないことがある。積龍神は蘇支の質問に応えてくれたほどだから、冷花には多くの知識を与えただろうと考えてはいけない。蘇支は尊霊で冷花は人間であるからだ。但し冷花は、尊霊とは語ることが出来る。
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