冷花伝 #011 ある巫のこと
御山に行った巫のことであるが、先ず巫と云う存在が珍しくもない。と云うことを知っておかなければならない。人間界に巫の免許があったわけでもないし、一定の作法があった訳でもない。しかし尊霊界には明確な基準があった。尊霊と会話を交わせる女である。男の場合は覡(げき)と云うが、これには一種の免許が在った。各國には其の國を統制する王が居て、王が覡の免を許す。国家試験に相当する基準が王の見識によると考えればよい。面白い事実だが、巫は自称で成立していた。女體の持っている神秘性は自称を正当化する。とでも言うに止(とど)めておく。詳しく語れば良いのだが、そんな事より、冷花に関わった巫に焦点を当てる。巫の存在が珍しくないのに、冷花の父は態々(わざわざ)隣村の巫を尋ねた。その巫はいつの間にか隣村の呂丹炉(ろたんろ)に住み着いたのだが、父は祖母から呂丹炉について聞かされていた。「呂丹炉には神界の門が在って、神々が出入りする。その門前には鬼が居て、人を寄せ付けない」と云うものだ。有り触れていて、更に胡散(うさん)臭い話だが、父にすれば「彼処(あそこ)に住み着ける巫だったら、神通力を得ているに違いない」と思ったのである。ついでだから、その巫の名は射膳(しゃぜ)と云う。名が分明なのは、仙町録に記載されているからだ。
コメント
コメントを投稿