冷花伝 #009 赤子の印
確かに仙町録には、出生不明の冷花情報が事細かく書かれている。不思議に思えることもあるが、世界は其のようなものである。ここで勘違いしてはならないことがある。尊霊界の記録が詳細なのは冷花に関してであって、何もかもが、その様ではない。人間界では当り前の情報が、尊霊様は全く知らないこともある。さて臨月を迎えた甲子(かし)は体調を崩したが、出産日が近づくに連れて元気を取り戻した。隣村の巫が「言ったから」かどうかは別として、とにかく快復してきたのである。本来、甲子は元気な女性である。それから甲子の出産に対して大騒ぎしているのは尊霊界であって、嗜乃津(たしなず)の実家では普通に忙しくしているだけだ。仙町録には「昴女なるに昴日に生まれた」と在るが、辰月1日が昴日かどうかは怪しい。但し尊霊界では「昴が眩しいくらいに明るかった」のかもしれない。かくして、無事に生まれた冷花だったが「肌が不可思議に綺麗な赤子」と記録されている。ファンタジー映画だったら「何々の印(しるし)」とか云って「あざ」でもあるのだろうが、冷花は綺麗な肌の赤子として生まれた。生後ひと月の頃、父は隣村へ行った。巫に会うためだが、巫はいなかった。村人に尋ねると「御山(みやま)の麓に行く」と言って姿を消したそうだ。
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