冷花伝 #008 誕生日

冷花の出生を記録しているのは菜田(なた)の仙町録(せんちょうろく)であるが、仙町録は菜田の尊霊界で書かれた書ではない。随所に「多戸(たんと)にて」と括ってあることから、恐らく淡路島産だと思われる。多戸と云う処は特定の地名ではなく、冉(なみ)族の仙女が渡来した場所を言う。ところが冉族が最も長期に渡って住み着いていたのが淡路島なので、作者の頭(あたま)では「多戸とは淡路島の古名」となっている。冷花が冉族の仙女と出逢うのは九歳であるが、その時初めて冷花が「自分が昴女に間違われたこと」について語っている。「昴女はもっと変な人だ。冷花みたいな普通の子供じゃない。冷花は背も高くなってきているし野摘みもする」この言葉も仙町録に記録されている。ここで注目して頂きたいのは、昴女の性(しょう)である。纏めると「昴女は背が伸びない変な子供で野詰みはしない」と云うことになる。どうやら昴女の目撃記録は複数在ったらしく、常に同じ背丈だったようだ。だから「昴女は背が伸びないから冷花とは違う」と言っている。やや微笑ましい発言だが、実は的を得ているのである。野詰みをしないのは至極端的だ。神界から来た者は、人間界の物を採取してはならない。この事を「子供の冷花が知っていた理由」は、母から聞いていたからだ。さて此の辺で、話を前段の続きに戻そう。父は、難産になりそうな甲子を助けようとして隣村の巫に会いに行った。そして巫には会うことが出来たが「私は御神事で忙しい」と断られた。しかし「その子は強いから大丈夫だ」と言ってもらえたので、父は安堵して帰宅したのであった。それが卯月の23日、そして冷花が誕生したには辰月の1日。仙町録には、その様に書いてある。

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