冷花伝 #017 赤子の口元

冷花が注目されるのは「嗜乃津の尊霊界を救う為に生まれてきた」と期待されたからだった。それから、もう一つ「昴女が降りてきた」と云う噂もあった。此処で注意をしておくが、此の二つは別ものである。まだ喋らぬ赤子なのに、騒然とした空気に包まれながら始まった人生である。そんな冷花が本領を発揮するのは、仙町録によれば十三歳からだ。当然そこからは、人間としての言動に注目される訳だ。しかし念を押しておくが、冷花の所作が詳細に分かるのは、尊霊界の記録が在るからである。さて、末目彦が何をしに菜田へ行ったかは気になるところだ。だが其れは後回しにして、星名女(ほしなめ)の話を先にする。冷花が生後三カ月になった頃、いきなり現れた仙女である。音象詩(おんしょうし)に本人の言葉が残っている。音象詩とは、嗜乃津尊霊界に保管されている記録である。著者は「星名女」本人らしい。曰く「此國に渡れしは音象の導き故。鎮星の奏でるは心様を調和するが為。星名は龍子舞を師とする仙女である」と。これは自己紹介のようであるが、全文を出すと紙面が埋め尽くされてしまう。そこで、冷花の傍で行った所作を述べておこう。生後三カ月頃は、四魂と語るのに都合が良いと云う。つまり冷花の四魂に聞きたい事があったのだ。それは、身体に四魂が定着してしまう前の頃合いのようだ。因みに、四魂がほぼ定着するのは二歳である。現状からして冷花の出魂界を知っていての行動だ。星名女は一週間ほど冷花の家に滞在した。そしてその間、赤子の口元を一日中、見つめていたそうだ。そして両親に「龍神が迎えにきたので御暇(おいとま)いたします」と言って、姿を消した。両親は星名女に色々と聞きたいことがあったのだが、自分の用事が終われば寸陰与えず去ってしまった。

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