冷花伝 #020 胎内の変遷

田室女(たむろめ)、つまり妊婦の身体では、新しい中心が現れてくる。新しい中心とは赤子の四魂のことだが、一人の人間が形成されていくことでもある。人間社会は「人の集まり」で成り立つ。当然のことを言っているのだが、一人の人間は、自分の意識に依れば「自分は世界の中心」である。言い換えると、社会は「中心の集まり」なのだ。此処で何を哲学しているかだが、これは冷花の両親が、妊娠中を思い出しながら、語り合っていたことだ。結論に至る経緯は二人の記憶に在るが、田室女は賢者の遺聞を拾い集めていたようだ。「その賢者の一人」と思われるのが尊霊の末目彦だ。末目彦が胎児の観察を始めたのは、受胎して一カ月あたりからだった。その頃から甲子には「誰かに囁かれているような感触」があった。その感触は約一月(ひとつき)続いて、ある日、無くなった。それから胎児が動き出したのだ。一般では、四カ月あたりから胎児の動きを感じるそうだが、甲子は早くから自覚していた。それは世間で云う胎児の動きとは違うかもしれないが、甲子は田室女として「動く胎児」を感じたのである。その時は気にしていなかったが、改めて妊娠中を思い起こすと普通とは違っていた。最初、末目彦が話しかけたのは受胎一カ月あたりから三週間。そして棟締(とうしめ)に報告して三日後から再び三週の間、語りかけたのである。二度目の三週間では「誰かに囁かれているような感触」が甲子にはなかった。その理由は、胎児の四魂が応えたことにある。つまり神霊界での出来事として室分されたからなのだ。ここで忘れてはならないことがある。それは、冷花に語りかけていた尊霊は末目彦だけではなかったと云うことだ。

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