冷花伝 #024 昴女の伝説

冷花の語りは、昴女騒ぎから始まった。それでは、昴女を深く知る機会を与えよう。各地で尊霊界が発生した経緯は、簡単ではあるが既に述べている。察しの通り「昴女の伝説」は尊霊界で語られていることだ。ところが其の起因は人間界に在る。其れでは此処で、帥升(すいしょう)と云う単語を覚えてもらおう。一応、人名である。支那の歴史書である「後漢書」に記述されている倭国王である。外書に記述されている最古の日本人と云えるが、諸説はある。しかし私の小説では、彼こそが後の神武天皇なのである。そして帥升は二度、支那へ貢物をしている。後漢書の東夷伝に記述されたのは二度目の象であって、西暦57年の初朝貢では金印を賜っている。実は、帥升が西暦107年に二度目の朝貢を行うことに昴女が関わっているのだ。ところで帥升は人間であるから、背後には尊霊の加護がある。尊霊が動いてくれるからこそ歴史に名を残せた。当時、支那へ渡航するには命懸けである。故に勇気と絶大な決心が必要なのだが、その原動力を与えるのは「何でもない不思議体験」であった。そして、よく引き合いに出されるのが「夢の御告げ」である。しかし帥升の場合、生めかしい事が切っ掛けになる。西暦101年の冬、三増(みませ)の海岸に「水浴をする少女」が現れると云う噂が広まった。もちろん少女が水浴をするのは珍しくはない。ところが季節からして不自然だった。それを聞きつけた帥升は、一人で確かめに行った。すると噂通りに少女が水浴をしていた。彼は静かに近寄って声をかけたが、少女は微笑むだけで返事をしない。顔つきからして近隣のものでないことは明らかである。言葉が分からないのだろうと察し、口は封じた。暫くは見つめ合っていたが、彼は衝動にかられて少女を抱きしめた。少女は嫌がることもなく、黙って抱かれていた。暫くして帥升は我に返った。少女はその顔を見上げている。そこで彼は周囲を見渡した。脱いだであろう衣服が見当たらない。「この子は最初から裸だったのか。ならば此の寒さで耐えられるのは神」と思った。その念が伝わったのか、少女は話し始めた。「お姉様に言われて此処に来ました。道も分からず彷徨っておりましたが、初めて声をかけたのが貴男(あなた)です。これで用を果たしました。勢いを保たれますように」と言って、海の中へ消えて行った。ここで帥升は何故か勢い付いて再渡航の決心をしたのである。後に帥升は、多くの者に少女神の話をした。それは尊霊界にも広まり、やがて「昴女の伝説」として各地に定着した。因みに三増(みませ)とは、現在の宗像市である。

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