冷花伝 #028 十歳の誕生日

ここまでの話で「昴女伝説」の始りが分かったと思う。つまり冷花が生まれる約千年前が発端だったのだ。それでは話を、冷花の生まれた時代に戻そう。十歳の誕生日、再び舟会がやって来た。初回訪問の折「来年に、また訪れます」との予告は聞いていたから、甲子にすれば少し楽しみにして待っていた。当人の冷花は「あの人は同じ日に来るだろうな。誕生日を思い出すから良いかも」と云う乗りである。母が「楽しみですね」と言ったら「別に」と返したが、甲子の目には楽しみにしているように観えた。舟会がやって来たのは巳刻に入ったあたり、手土産に魚を持って来た。一声が「これは今朝に釣ったばかりです。この辺りでは取れない魚です。試しに召し上がってください」だった。「あなたが釣ったのですか」と甲子が聞くと「釣られたかのように跳んで、私の瓶に入ってきました」と舟会は行った。それを聞いた冷花は「釣ったのと違うでしょ。取ったんだよ」と言って、楽しそうに笑った。ところが舟会は真面目な顔で「釣ったのですよ」と小声で言った。それから家に入って、茶板(ちゃいた)を囲んで早速「舟会さんは何を話すのかな。冷花は話すことはないけど」と云う言葉を皮切りに、少女は半刻ほど喋っていた。頃を見計らって舟会が言った「冷花さんは好きな男子(おのこ)がおるのですか」どうやら冷花の話す内容から察したようだ。冷花は目を顰(しか)めて「そんな者はいない」と返してから話題を逸らした。「舟会さんは芽込羅(めこめら)のことを話したいのでしょ。私は昴(ぼう)じゃないよ。普通の子だから。自分が思うから間違いないんだ」と。それを聞いて、一呼吸し、舟会は何故か大笑いをしてしまった。それを見つめながら「どうして笑うの」と、やや怒った振りで冷花が押した。舟会は「御免なさいね。私が伝え聞いている芽込羅はね、人間の男には興味がありませんと言いながら男子(おのこ)を探して彷徨うらしいのです」そこで愈々(いよいよ)冷花は怒る。「冷花も男子には興味がないけど、冷花は人間だからな。芽込羅は神様でしょ。違うよ」そのあたりで、母の甲子も笑いだした。冷花は呆れたように二人を交互に睨み「やっぱり冷花は芽込羅じゃないでしょ」と言った。

コメント

このブログの人気の投稿

鯉冥士の天文学(JT 11:49/19/10/2022 三蔵)