冷花伝 #031 黄泉国の鎮座
黄泉国の由来であるが、其れを理解する為には妖精界の基礎知識が必要だ。「尊霊界こと始め」については、十八歳の冷花が語った言葉を既に引用している。記憶が曖昧な読者は「冷花伝 #004(ナンバーぜろぜろよん)」を読み返していただきたい。先ず、尊霊界は魂の世界である。そして妖精界は念縛の世界である。念縛とは「想いを凝り固める」ことで、人間が得意とする所作である。その所作や作業によって、人間が妖精界を創造した。もちろん例外的なものもあるが、此処では基本を学んでいただく。一方、尊霊界は宇宙に存在する正式な時空である。神界としては最も人間界に近い第十三階層になる。其処へ人の魂が入界して生存することから始まった。ところが妖精界は人が造った。掻(か)い摘(つま)んで言うと、尊霊界と妖精界は、自然物と人工物の違いである。人工物は形状維持が不安定である。だから妖精界は、不安定で寿命が短い。ところが、尊霊界に上手く締縛(ていばく)されれば寿命が延びる。締縛とは掴(つか)んで離さないことだ。それでは、冷花廿一(にじゅういち)歳の語りを引用してみよう。想いを込めるのは難しいが、追い詰められると想いは固まるものだ。どの様に追い詰められるかよりも、何人(なんにん)に追い詰められるかが決め手になる。一人で誰かを追い詰めるのは至難だ。二人で演(や)っても意が割れる。三人ならば割れても閉じる。四人は縛する尻から散ってしまう。五人に演(や)られれば、心に逃げ場が出来る。六人ならば、追い詰めた連中が内から壊れる。七人が纏まり、そして演(や)られれば、逃げ場なく追い詰められる。八人以上は煩(うるさ)いだけで、人を追い詰めるのは無理だ。私は十歳の巳月、冉族の舟会から黄泉国の由来を聞いた。その時の自分には難しかったが、十年の歳月を経て自分なりに納得した。祖の伊佐那輝羅(いさなきら)は、八禮(やらい)から倭国に渡った仙女である。帥升の時代よりも遠い昔のことだが、城島(きじま)で伊那岐(いなき)と云う男子(おのこ)に出逢い契(ちぎり)を結んだ。後に諸地を巡って多くの村を起こした。二人は特別な体質と修練によって不老を得ていた。ところが大地が揺れる時があった。そして、ある山が火を噴いた。それで伊佐那輝羅と伊那岐は逸(はぐ)れてしまう。その頃、伊佐那輝羅と同郷の星族が黄泉国に定住していた。星族は其処で定住するまでの長い間、他族の攻撃に遭ったが打ち勝ってきた。最後に戦った族には七人の強者(つわもの)が居て、星族は追い詰められて行った。それでも星族は勝った。しかし、生きる為の強い想いが固まって、妖精界が創造されていた。そして其の妖精界は不安定で、星族もろとも崩れそうになる。其処へ倭国からやってきた伊佐那輝羅が合流する。伊佐那輝羅は倭国で多くの功績を残してきた経緯があった。その甲斐あって黄泉国に尊霊界を形成することが出来た。その尊霊界に締縛された妖精界は、安定して地下に沈んだ。そして、人間界、尊霊界、妖精界が連帯した空間が確立された。後に、この連帯世界が黄泉国と云う名で伝えられるようになった。
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