冷花伝 #034 世界の亀裂

老婆が言うに「我は城島の尊霊である。遥か昔、人として此処に住んでおった。村を作り、古老から農も学び、漁は得意な者がやりよった。人の天寿は百年ほどだ。其れを全うして此方(こちら)に来た。眠って、目覚めて、此方で生活をするようになった。最初は何も分からなかったが、身体が軽いのに気付いた。鏡がないし、此処の水面(みなも)は顔を写してはくれぬ。しかし自分が此処に居る理由を考えながら暮らしてきた。人として生きた年月よりも長く此処にいる。此処が城島だと知ったのは後から来た奴(やつ)が教えてくれたからだ」等と、死んでから今までのことであった。末目彦は考えた。どうやら此処は安定した尊霊界ではなく、妖精界が中途半端に締縛された部分界のようだ。自分が辿ったのは、水壁に弾かれて此処まで滑り込んできた経路なのだ。これで何となく、嗜乃津(たしなず)尊霊界の状態が分かってきた。周辺で妖精界が形成され、その重みが針のように尊霊界に刺さってきたのだ。城島の尊霊界は百年以上前から其のような状態になっている。ところが問題なく存続している。末目彦が最初に落ちたところは妖精界。そして尊霊界の亀裂にまで辿ってきた。自称尊霊の老婆は、誰かが造った妖精なのだ。末目彦は尊霊なので、尊霊界のことは良く知っている。尊霊界の水面は水鏡になる。老婆が「此処の水面は顔を写してはくれぬ」と言ったことで大凡(おおよそ)のことが理解出来たのであった。

コメント

このブログの人気の投稿

鯉冥士の天文学(JT 11:49/19/10/2022 三蔵)