冷花伝 #038 龍神の立場
冷花が述べる龍神の下りは、龍神が龍神のことを話すように流暢だった。それには訳がある。冷花八歳の子月廿六日、星名女(ほしなめ)がやって来た。冷花が生後三カ月になった頃、いきなり現れた仙女であったが、その時も突然(いきなり)入屋(にゅうおく)してきた。甲子が驚いて「あなたは」と言いかけたら「はい」と答えただけで、冷花を表(おもて)へ連れ出そうとした。「何処(どこ)へ行くの」と甲子が言うと「表で話をするだけです」と言う。そして強引に連れ出されたが、珍しく冷花は素直に付いて行った。そして出て直ぐ「あなたなら見えるでしょ」と言って北東の空を指差した。冷花は暫く見つめていたが「何か動いているようだけど」と言いながら、分からないような素振りで口を開き始めた。そして此処から、冷花らしい発言で星名女を圧倒して行(ゆ)く。「ねえ、小母さん誰。名前を教えて」星名女は驚いた。北東に見える龍神のことを聞かれると思っていたからだ。「星名(ほしな)です。私の名が気になるの」と答えた言葉に「うん。遠くで動いているものより、近くに居てる人が誰かを知りたいから」当り前でしょ。と、ばかりの表情で言った。星名女は少し戸惑ったが、内心「この子の云う通りだ」と納得して、冷花の話を聞くことにした。「あれは龍でしょ。遠くに居るから良くは観えないけど。私は龍に護られてるって、母さんが言ってる。でも、何を護ってくれているのか分からないの」と、質問とも思えることを言った。冷花にすれば「護ってもらっている実感が無い」と云う意味で言ったのだが、星名女は得意気(とくいげ)になって「護ってくれています。今も其の為に来ているのです」と答えた。冷花は不機嫌そうな顔をして「あの龍って、小母さんが連れて来たのでしょ。冷花は護ってもらってないけど」と言う。そこで星名女は「龍神には立場があって」と、如何にも龍神の専門家のように語りだしたのである。ここで作者の注釈を入れておく。事実、星名女は龍神を良く知っている。調子に乗ると何でも話してくれる。どうやら星名女は、八歳の冷花が気に入ったのか、それとも八歳の子供に乗せられたのか、龍神について喋りまくった。その名言の数々は、星名女自身が著した「音象詩(おんしょうし)」に認(したた)められている。
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