冷花伝 #041 連妖の生立ち

冷花が連妖(れんよう)について詳しく知ったのは芳雅(ほうが)導士に弟子入りしてからのことだ。但し師匠から教わったのではなく、妹弟子の田端刃(たづまは)が妖精界の探求に特化していたからだ。ところで冷花伝の面白さは各所に在るが、田端刃との遣り取りが熱狂を極める。しかし連妖の生立ちについては、星名女(ほしなめ)が残した記録が分かり易(やす)い。

 音象詩 三章「連妖の生立ち」 
妖精は人が縛して育む。小生物(こいきもの)も居(お)れば、屋敷の様相もする。普(ふ)は個別に現れ、親に付き纏(まと)い、やがて界を造る。其れらは自立出来ぬ故に、尊霊界に寄せては生き延びる。麗(うるわ)しくも醜(みにく)くも、吾等(われら)の干渉は入れぬもの。しかし連妖に関しては放(ほ)おってはおけない。納音(なっちん)を剥(は)ぐからだ。師、龍子舞(ろこまい)が云うに、男女の結びを狂わす妖怪也。単独ならば害は無い。繋がれば弓鳴りをして雑音を発す。それ怪音にして人の趣向を曲げ、強いては尊霊界に刺さりて潰す。若し尊霊界在って、安寧を崩さんと察すれば連妖の仕業を疑うべし。発生(はっせい)は主に水上の物流と云う。船連なって行くは衝合を避けるに怒鳴り、或いは親愛を交わすに叫ぶ。交易疎通には大声に想いを込め、下船叶えば密かに談を交わす。世に多く観るも、倭国の内海に現れる連妖は堅牢也。鎌先(かまさき)より生じて、戯岸(ざれぎし)に結ぶを水壁(みずかべ)と云うは、嗜乃津(たしなず)尊霊の呼称である。

 鎌先とは現代の下関のことだ。此れまでの語りを纏めると、連妖の発生は船の航行から始まる。日本国で最も長い連妖は下関辺りから大阪湾まで連なっていた。念縛の親元(おやもと)は船乗(ふなのり)であって、界の仮締縛は夫々の船。一隻の船を一つの妖精界と思えばよい。船に仮発生した妖精界は短命であるが、田端刃によれば三カ月は壊れないそうだ。壊れる前に他界と繋(つな)がれば、夫々が支え合って寿命が延びる。繋ぐ役割は、船乗同士の掛け合いだ。そして連なった妖精界は弓のように音をはっする。その怪音は生物の営みに影響を与えると云うのだ。ところで嗜乃津の尊霊界から対岸の尊霊界へと渡るには、この連妖を越えなければならない。これを水壁と呼んでいたのである。

コメント

このブログの人気の投稿

鯉冥士の天文学(JT 11:49/19/10/2022 三蔵)