冷花伝 #042 飛翔天女の舞
宗教絵画に登場する飛翔天女。絵師の想像によるものだろうか。この冷花伝では、当り前のように登場するのだが、其れは現実である。と云うことで、話を進めることにしよう。冷花が初めて「空を飛ぶ人」を観たのは、十歳の卯月廿五日である。冷花に聞きたいことがあって、星名女がやって来た。その時は先ず、玄関で声を掛けた。「甲子(かし)様、星名が参りました」甲子は慌てて「盆架水(ぼんかすい)」を用意した。星名女は丁寧に椀を手に取り、一口飲んで返した。それを観た冷花は「小母さん、何(なん)か前と違うね。冷花じゃなくて、母さんに会いに来たの」と聞いた。「いいえ冷花さんに会いに来ました。あなたは尊霊様と御話が出来るでしょ。その話を聞きたくてね」冷花には未だ違和感があるようで「小母さんも尊霊と話が出来るんでしょ。聞きたいことがあるんだったら、自分で聞けば」と、冷花は愛想(あいそ)ない返事をした。「私が聞きたいことはね。冷花さんしか答えられません。だから来ました」冷花は遂に怪訝(けげん)な表情になり「なに」と、ぶっきらぼうに言った。「尊霊様は、あなたのことを何(なん)て呼ぶの」ここで冷花は腹立たしく「冷花に決まってるでしょ」と云う。しかし甲子には、星名女の目的が理解出来た。「私が冷花さんを呼ぶ時は、あなた、とか言うでしょ。尊霊様は何て言うの」冷花は不思議そうな顔をしていたが、もしや昴女と関係があるのではと、感づき始めた。「そう云えば、目利(めき)って云われたことがあった。変なこと言うなって思ったけど、単に阿法(あほ)かなと思った。尊霊様って真面目な人ばかりだけど、賢くはないみたいだから」これを聞いた星名女は、目を見開いて「そうですか。ありがとう」と言って帰ろうとした。この行動は星名女らしい。甲子は笑みを浮かべていたが、冷花は「小母さん、もう帰るの。聞くことは其れだけ」と引き留めるように言った。星名女は「はい」と返事をしたが、このまま帰ったら冷花に嫌われるような気がして、思わず「遊ぼうか」と言った。すると冷花は笑顔になって「空を飛ぶところを見せてよ」と御強請(おねだ)りをした。
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