冷花伝 #051 鎮星の舞
星名女が初めて「鎮星之舞」を披露した時、冷花が「小母さんには羽があるの」と言った。それで「私は羽で飛んではいません」と返したら「そうじゃなくて、立っている時に羽が見えたの」と、何気ない発言。これが星名女にとっては、衝撃的だった。何故なら自身の記憶として「鳥族に関する伝説」羽を持った種族のことが在るからだ。文学の世界で「鳥族」が出てくるのは、アラビアンナイトだったと思う。其処ではサタンに仕えている種族として登場する。そのような描写をされるのは、滅ぼされた種族の可能性が大きい。勝者は必ず、敗者を悪魔に仕立てるからだ。ところで星名女は其のことを意識していた訳ではない。冷花に「鎮星之舞」を披露した目的は別にあった。それは冷花を守護する龍神に関係がある。つまり目利(めき)の前世記憶を呼び覚ませないかと云う試みだったのだ。冷花の魂には使命がある。その使命内容は星名女には分からないが、背後に強力な龍神が控えているのは歴然たる事実だ。しかも其の龍神は龍子舞師匠とも関連がある。師から多くの知識は得ているものの、冷花の出魂界については謎が多い。要するに冷花の前世記憶から、其れを伺おうとしているのである。せっかくだから星名女の記録を覗いてみよう。
音象詩 六章「大鳥(おおとり)の翼」より
師が倭国に就かれる前、私の出魂は師と同界だと教えて頂いた。そして其の界へ戻ることが修行の完成になると。しかし幾ら修行を積もうとも自力では戻れないことも併せ聞いた。更に師は、尊霊界を巡るのが良い。尊霊界を整備する神々は、元魂界へ御前を誘(いざな)える。もし其の神に出逢ったなら「私は大鳥の翼を持っています」と告げなさい。そうすれば文官に報告してくれる。しかし其の機会は僅かしかないと、師は言葉を括ってしまわれた。そして幾星霜(いくせいそう)、私が語らなくとも「私の翼」を証明してくれる人に出会った。
星名女が尊霊界へ「音象詩」を残している理由が正に此れである。つまり冷花に出逢ったことが、宿願達成への第一歩だったのである。但し、龍子舞師匠が言った「大鳥の翼」とは出魂界のことを言っているのであって、冷花が見た星名女の翼とは意味が違う。「翼」と云う言葉が共通していただけだ。ところが此の「大いなる勘違い」が、星名女の招来に希望を齎(もたら)したのである。
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