この話は、仙町録にも音象詩にも、書いていない。冷花11歳の「ある日」の出来事である。家の裏に在る「石畳(いしだたみ)」のこと。冷花が母に聞いた。「平(ひら)たい石が並んでいるけど何するの」甲子(かし)は「えっ」と思って石畳を見た。そして「こんなの在ったかしら」と首を傾(かし)げた。そんな母の様子を見て、冷花は「昨日は無かったよ。母さんが作ったのかと思った」と不思議がることもない。誰かが置いたには違いないだろうが、一晩で作るには大き過ぎる。一刻ほどして、父が仕事から帰ってきた。冷花は全く同じ言葉で聞いた。「平たい石が並んでいるけど何するの」速凄(はずさ)は「あれっ」と言って、暫く見つめていた。その父の様子を見て、冷花は「昨日は無かったよ。父さんが作ったのかと思った」と楽しそうに言った。読者はもう分かったと思うが、この石畳は冷花が作ったのである。厳密に云えば冷花が作らせたのであるが、其れを話す前に言っておきたいことがある。本段から父の名を明かすことにした。そろそろ出雲族の話題を織り込むからだ。別に隠していた訳ではなく、単に作者の趣向だと思っていただきたい。それでは石畳の話に戻す。昨晩、冷花は就寝して間もなく夢を見た。但し一般的な夢ではなく、妖精の訪問を受けた。その妖精が「石畳」なのである。冷花のように尊霊界が良く見える者は、妖精界を観るのは不得意だ。それで石畳は夢を利用した。因みに石畳の正式名は「杭亀(くいかめ)」と云う。正式名と云うのは田端刃(たづまは)が呼称する象名で、連妖(れんよう)に対する雲羅華(くもらげ)のようなものだ。夢に御人形(おにんぎょう)のように小さな子供が現れて「明日、お母さんと家の裏に行って聞いて欲しいのです。平たい石が並んでいるけど何するの。って。冷花には見えていないけど、見えているように言って欲しいのです。それで、お母さんに見えているかどうかを確かめるのです。見えているようだったら、昨日は無かったよ。母さんが作ったのかと思った。って言って欲しいのです。そして、お父さんにも同じことを言って欲しいのです。裏には此の子が来ているのです」そう言って指差したところを見ると大きな亀が居た。冷花は「面白そう」と思いながら夢の中で目を閉じた。
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