冷花伝 #065 音象誌の始り

星名女は隠行が得意である。龍神と共に動いても、周囲に悟られることはない。ところが冷花には、動きを悟られたのである。それから暫く、その理由を考え続けていたのだ。その思考が「音象詩 第八章」から伺われる。龍神に対する甲子の反応、そして冷花の洞察。これを追求することによって、星名女なりの「龍神学」が完成した。ところで此の事を境にして、星名女の方針が一転したのだ。始めて冷花を訪れた頃には、冷花を弟子に迎えようと思っていたのである。ところが其れを撤回した。それに冷花には師と仰ぐ人が決まっている。その未来を察知したのも星名女の能力であるが、彼女が「暦神の結束を知っていたこと」も手掛りの一つだった。さらに詳しい理由については「音象詩 第十三章」に残しているが、其れは別の機会に紹介する。それより仙町録には興味深い記述がある。


仙町録「雑記(ざっき)段 三十」
多戸(たんと)にて、水壁の悪路を断ち切ったと云う女仙に逢った。自他共に操龍の誉(ほまれ)を認め、鎮星を舞うと云うは龍子舞の名を漏らすこと度々(たびたび)也。何(なに)を求めるに出魂糸(しゅっこんし)を手繰ると云うては、背布龍(せめりゅう)が担うと宣(のたま)う。此の仙女は嗜乃津(たしなず)の恩女(おんにょ)にして、起因は昴女を追って来たと伝う。冷花の技を得るを欲して四面を遊行す。其(そ)は水浴をして素女(そめ)を洗うに頗(すこぶ)る丁寧(ていねい)故、我聞く。「恩女は素女技(そめぎ)を磨いておるに如何法なるや」恩女曰く「甲子法にして龍と通じるを磨く。是、昴女の秘法なりて見授(けんじゅ)せしもの」也と。

この記録を読むに当たり、間違ってはならないのは「人間と尊霊の遣り取り」であることだ。星名女は仙女だが、第五の人間である。要するに、尊霊が水浴していた星名女に逢った。と云うことだ。尊霊は末目彦であるが、どうやらこの時から正式に「音象詩」を書き始めたようだ。一字一句の意味よりも「情景の雰囲気」を味わって欲しい。此処に日付はないが、冷花十四歳の午月三日のことである

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