連妖の正式象名を「雲羅華(くもらげ)」と呼ぶことは既に述べているが、本段では形状について語っておく。最も詳しいのは田端刃(たづまは)に依るものだが、冷花が観たと云う記録が仙町録「冷花十九段」にあるので其れを要約する。父と出雲に居た冷花は海岸に締縛された多くの妖精界を観察していた。妖精を見るのは不得意な冷花であるが、その経験によって輪郭ならば濃(こ)く擦(なぞ)れるようになる。十五歳卯月に一旦、嗜乃津(たしなず)へ帰り、母に出雲での経験を語る。十六歳戌月には再び出雲へ戻るが、その期間に嗜乃津から為津(なしず)までの水壁(みずかべ)の輪郭を詳細に観察した。その結果、連なった尖箇所(とがりかしょ)には言葉が詰まっていることを発見した。と、こんな内容であるが原文は長文である。雲羅華の形状は頂(いただき)が尖ったテントのようなもので、それが単体である。とうぜん連妖に成れば、連なった尖箇所が並ぶことになる。音象詩によれば、冷花が尖箇所に意識を集中させると言葉が聞こえてくるそうだ。それは外部から眺めている星名女にも聞こえるらしく、彼女は「尖った言葉」と表現している。冷花が耳にする「尖った言葉」は、自分の声で聞こえてくる。外部から星名女が聞いた「尖った言葉」は冷花の音色ではなく別人のものであるらしい。星名女も試してはみたが、上手く尖箇所に集中出来なかったそうだ。ここで御分(おわ)かりと思うが、星名女は冷花を観察し、長期に渡り研究をしていた。その成果が音象詩に記録されているのである。
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